STYLING GUIDE

スーツ生地をプロが解説!生地選びのコツと種類・おすすめブランドを紹介!

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監修:石川佳宏(青山店エリアマネージャー) / 投稿日時:2018.12.13 18:21:14


オーダースーツをつくるときの一番の楽しみ、それは‟生地選び”にあります。しかし、たくさんの素材やブランドのなかからどう選べばいいのか……悩んでしまいがち。今回はプロのテイラーが、スーツ生地のおすすめから選ぶときのコツまで徹底解説。ポイントを理解し、自分好みのオーダースーツを作りましょう。

産地ごとのスーツ生地の特徴

質の良い生地を生産するためには、きれいで豊富な水が不可欠。なぜなら、織物を生産する過程の中で、原料段階での洗浄や染色、織り上がった生地の仕上げなど数々の工程で大量に水を使用するからです。良質な水質に加え産地ごとの特徴を理解することも、自分に合った生地選びをする上で重要です。ここでは毛織物産地としてよく比較されるイタリア・イギリス・日本の3か国の生地の特徴をご紹介します。

「イタリア」


イタリアの代表的な産地はアルプスの恵みを享受するビエラ。横糸に単糸(糸が1本のみ)を使った生地が多く、柔らかくて滑らかな生地感です。また、美しい光沢や上品な艶が高級感と品格を醸し出しています。色目が鮮やかなものが多いのもイタリア生地の特徴です。しかし、しなやかな分繊細で、他の産地と比べる生地の強度はやや弱い傾向にあります。


「イギリス」


イギリスの代表的な産地はヨークシャーの恵みを享受するハダーズフィールド。生地を双糸(糸を2本よったもの)同士で織りあげられているので、ハリコシがあり、厚く硬めの生地が特徴的。イギリスは寒くて湿気も多い地域のため、しっかりした地厚な生地でないとすぐよれてしまうことや防寒の面からも、肉厚な生地が好まれます。スーツ発祥の地であるという点や、保守的である国民性からクラシカルで伝統的な色柄の生地が多いのも特徴です。


「日本」


代表的な産地は愛知県北西部に位置する尾州地域。木曽川と豊かな自然の恵みに育まれ、一大毛織物産地として世界中にその名が知られています。日本のスーツのルーツはイギリスのため、デザインだけでなく、生地も強く厚手で耐久性がありイギリスに近い特徴を持っています。


尾州の強みは、毛織物の生産工程である原毛を糸にする紡績、複数の色糸を一本にまとめる撚糸、染色、生地へと織り上げる織布という糸から織物として完成するまで、基本的に全てが専門企業による分業で行われているということ。腕利きの職人たちが各工程で高い専門技術を発揮し結集させ、上質な「尾州織」を作り上げているのです。

スーツ生地の代表的な織り方とタグの見方

産地・原毛・糸の種類はもちろん、織り方でも風合いが変わってくるスーツ生地。織る糸の種類や織り方の豆知識を知ることで、季節や目的に合わせた一着を作ることができます。ここでは代表的な3つの織り方とその特徴を紹介します。


「平織」


たて糸とよこ糸を交互に織る平織(ひらおり)。厚みがありますが、糸が交わる部分に隙間ができるため、通気性が良く夏向けの服に多く利用されます。模様は左右対称となり、頑丈・丈夫で、摩擦に強く、ツヤが出にくいのも特徴です。平織の代表としては、ブロード、オックスフォードがあります。


「綾織」


斜文織(しゃもんおり)やツイルとも呼ばれる綾織(あやおり)。たて糸が2本のよこ糸を通過した後に、1本のよこ糸の下を通過することを繰り返すのが三つ綾と、たて糸が3本のよこ糸を通過した後に、1本のよこ糸の下を通過することを繰り返す四つ綾があります。糸の交差部分が斜めに浮き上がって見える織り方で、たて糸が多く表面に浮き出るのでツヤが出やすいのが特徴です。織密度が高く、保湿性に優れているため冬物で使用されることが多く、伸縮性の高さや、しわがよりにくいというメリットもあります。綾織の代表は、ジーパンに使われるデニムやサージです。


「繻子(朱子)織り」


たて糸・よこ糸どちらかが5本以上で、糸の交差する点が上下左右で隣り合わないように織られている繻子織(しゅすおり)。朱子織とも書かれ、サテン織りとも呼ばれます。滑らかで光沢がでる織り方で、サテン生地などに使われます。糸の交差が少ないため、シワや型崩れしやすい一面もあり、日常使いの服よりはフォーマルなドレスや裏地などに使われることが多いです。


「タグの見方」


生地選びの際に必ず目にするのが「バンチブック」。生地の見本帳です。そこには見本と一緒に、その生地の情報も確認することが出来ます。先ずは生地タグ(織りネーム)。産地・ブランド名・ブランドロゴ・モデル名・素材といった、その生地の基本情報が書かれています。


タグに記されたロゴで分かることはブランド名だけではなく、そのブランドが「ミル」なのか「マーチャント」なのかという業態も同時に判別できます。どちらも生地ブランドではあるのですが、「ミル」は織物工場で服地の生産業者のこと。「マーチャント」は商社、生地を作らずに織元から購入しています。「マーチャント」の場合、毛織商社の名前のみの記載となり、生地を織った織元は載りません。お店によっては生地タグだけでなく、素材や使われている糸に関する情報を別で載せていることがあります。そのなかで、Super表示に注目し、この数字を基準に選ぶのもひとつの方法です。


Super表示


ウールのみに使われる原毛の総合的な品質ランクで、ウールの原毛は、細く・長く・ちぢれが多いと高品質だとされています。ここで注意したいのは、Super表示は糸の太さではなく、糸に使われている「原毛の細さ」を表しているということです。Super90‘sが19ミクロン、Super100‘sが18.5ミクロンというように、Super表示の単位が10上がるごと、原毛が0.5ミクロン細かくなります。原毛が細かくなるほど、1本の糸をつむぐとき、必要な原毛が多くなるので、Super表示の数字が大きいと生地が高価になる傾向が高いのです。

良いスーツ生地を選ぶ3つのポイント

生地を確認するうえで大切なことは「光沢」「柔らかさ」「ストレッチ性」の3つ。これらのポイントは、スーツに仕立てた際の見た目・着心地につながるので重要です。ポイントを抑え、店頭では実際に手に取り、生地の特徴を比べてみましょう。


 


「光沢」


生地を手に持ち、どの角度で、どのような光沢がでるかを見ます。仕上がりをイメージするために、テイラーに生地を当ててもらい確認をし、自身の肌と生地との色味の相性を確認しておくのもポイントです。テーブルに置いた状態と、実際に着た感じとでは、色の印象がかなり違っているということもあり、スーツばかりが目立ってしまうことになりかねません。普段スーツを着るときと同じくらいの明るさの場所でチェックすることをおすすめします。


「柔らかさ」


良い生地は感触が柔らかく復元力に優れています。必ずスーツ生地をつまみ、柔らかさとシワがすぐに戻るかどうかを確認してみましょう。打ち込みのしっかりした生地はコシがあり、柔軟性と反発力でしなやかに曲がり回復力が優れています。コシのある良い素材を使った服は一晩ハンガーに掛けておくだけでシワも解消されるものです。


「ストレッチ性」


動きの多い営業マンがお客さま対応のためにスーツ姿で作業を手伝う場合など、ストレッチ性の少ない生地では、動きづらいうえスーツが痛みやすくなってしまいます。スーツ生地はその織り方や混紡される素材で伸縮が若干変わり、一般的には綾織の方が、ストレッチ性があり、リネンやシルクを混紡(種類の違う繊維を混ぜて糸にすること)素材は少なくなります。また、ストレッチ性を考慮せずに仕立ててしまうと、ベストなサイズ感にならないこともあるので注意が必要です。


 


季節別おすすめのスーツ生地


自分好みに仕立てるオーダースーツを、気持ちよく長く愛用するために「どの時期に着るか」ということを念頭に置くことは大切。季節ごとに着たいスーツの特徴を抑えておけば、様々な生地の中から、素材やおススメの色を見つけ、生地ブランドを絞ることが出来ます。ここでは、春夏・秋冬、季節ごとにおすすめしたいスーツ生地を紹介します。


 


「春夏編」


春の心地良い暖かさを過ぎれば、ムシムシとした暑い夏の時期が……。見た目がさらっとして、肌にべたつかず、涼しげに見える。いわゆる‟しゃり味“のある薄くて軽い生地が春夏には最適。ここでは春夏にオススメの生地を3つご紹介します。


・モヘア
・フレスコ生地
・リネン


 


モヘア


毎年多くの生地メーカーが発表する春夏の代表的な夏素材が「モヘア」です。アンゴラ山羊という乾燥地帯に生息するヤギの一種の毛で、その毛で織る生地はというと、まるでシルクのような光沢で高級感があり、シワになりにくく耐久性に優れ、断熱性も兼ね備えています。中でもキッドモヘアと言われる生後一年未満のアンゴラ山羊から取れる毛は、カシミアの様に柔らかいうえに強靭でモヘアよりもさらに光沢が増すので世界の高級ブランドが好んで使用しています。ただし、雨には弱いので梅雨の時期には不向きですが、夏の暑い時期には最適です。春夏兼用であればモヘア混毛率は10%から20%くらいがおすすめです。


フレスコ生地


フレスコという呼び名は、英国Martin&Son(マーチンソン)の商標名であり、日本ではポーラとも言われています。2本の強撚糸を撚り合わせた太い糸を用い平織で織るため、糸同士のすき間が生まれることで通気性にとても優れています。ハリコシ感も魅力で、実際に生地に触れてみると、ザクザクとした触り心地で、シワに強いということがわかります。


 


リネン


植物の亜麻(麻の一種)の茎から作られる天然素材「リネン」は夏素材の代表格。強い耐久性が特徴で、コットンやシルクなどよりも丈夫です。汗や水分などを素早く吸い取り発散させる特徴も持っているため、着心地もサラッとして清涼感があり、柔らかく肌にも優しいのです。また、防カビ性に優れ、雑菌の繁殖を防ぐので、汗の嫌な臭いも抑えてくれると高温多湿の日本では明治大正のころから長く愛用されている素材です。天然素材らしいナチュラルな風合いと程よい光沢が涼しげな雰囲気を演出してくれます。シワになりやすいので注意が必要です。


 


「秋冬編」


秋冬のスーツ生地は、素材によって表情が大きく変わるのが特徴です。春夏用の生地には無いような工程、製品の風合い、温かみのある柔らかさや高級感のある生地が揃っています。また、冬にしか楽しめないような機能性や技巧の魅力もあります。ここでは秋冬にオススメの生地を3つご紹介します。


・フランネル
・サキソニー
・シャークスキン


フランネル


ウールを起毛加工させた、柔らかくて温かみある生地感が人気のフランネル。厚手でしっかりとし、フェルトのような風合いで、見た目の鮮やかさやふんわりとした触り心地が特徴です。保温性が高いうえに軽く、秋冬にはぴったりの生地になります。着心地の良さはもちろんのこと、季節感あふれる着こなしを演出してくれます。


 


サキソニー


 


フランネルと同様の加工が行われ、風合いが似ている「サキソニー」は秋冬の定番生地です。元々はドイツのザクセンという地方で、スペインのメリノ種を改良された羊から取れるウールを使用されたもののことをいいましたが、近年では他のメリノ種のウールも使用されています。フランネルより薄手で、柔らかい手触りと光沢、織り目が見えることも特徴です。


一般的によく使われる素材のため、無地の生地が多くオーソドックスな一着に仕上がります。


 


シャークスキン


サメの皮のように斜めに細かいジグザグの柄をしていることが名前の由来であるシャークスキン。スーツ生地としてはクラッシックで伝統的な柄です。たてよこ2色の別々の糸を使い、交互に配列した綾織で、織り目や柄をはっきり見せており、単色のものよりも奥行のある風合いと色合いが特徴です。遠目でみると、無地のように見えますが、近づくと織り柄が現れ、大人らしい、控えめなおしゃれを楽しむことが出来ます。

季節別DIFFERENCEの人気生地ブランド

最後にDIFFERENCEで人気のスーツ生地ブランドを、春夏・秋冬ごとで紹介します。テイラーおススメの生地でもあるので、選ぶ際の参考にしてみてはいかがでしょうか。


 


「春夏編」


NEWZEALANDWOOL(ニュージーランドウール)


全世界のメリノ生産量の内、約2%しかない希少なニュージーランド産ウールを使用。ソフトさを保ちつつ、ハリ、コシ、発色性に優れた点が特徴です。ビジネスマンにも扱いやすい生地なので、初めてのオーダースーツにオススメです。


 


Tollegno(トレーニョ)


1900年に創業した老舗イタリアブランド「トレーニョ」のエキストラファインウールを使用した2/1サージ組織のスーツ素材。トレーニョ社独自のフィニッシュ技術による光沢加工が施されツヤや彩も美しく、色目の選択肢が豊富なのも特徴です。ライトウェイトで通年着用可能なスーツに仕上がり、繊細な生地が着る人のボディシルエットを際立たせ、得も言えぬ豊かで流麗なドレープ感を生み出してくれます。ビジネスからセレモニーまで、様々なシーンのオーダースーツに適しています。


 


Marzotto(マルゾット)


トレンドに敏感に反応し、コレクションに組み込むのが最も早いブランドとして名高いイタリアのマルゾット社。トレンド性だけではなく、素材も細番手によるナチュラルな光沢とストレッチ性までも兼ね備えた、欲張りなテキスタイルです。ベーシックなスーツを既に何着か持っているという人は、「粋」や「垢抜け」感を求めるイタリアらしいマルゾット社の生地で、いつもと少し違う一着を手に入れることが出来ます。


 


「秋冬編」


PTT STRETCH(ピーティーティーストレッチ)


ポリエステルと柔らかくしなやかな風合いのPTT繊維の混紡生地でストレッチ性があり、使いやすい素材。豊富な柄チョイスのあるオーダーだから選べるチョークストライプを、リーズナブルな価格で仕立てることが出来るのも人気の理由です。


 


Tollegno(トレーニョ)


春夏編でも人気生地ブランドとして名前の挙がったイタリアトレーニョ社。秋冬でも同社のエキストラファインウールを使用した適度なハリとコシがある素材は人気です。比較的しっかりした生地でありながら、クリアーな艶感が特徴。個性的過ぎず、一着あると安心な色柄の生地で仕立てられたスーツはヘビーローテーション間違いなしです。


 


CANONICO SUPE120’S(カノニコ スーパー120)


トレンド感があるスリーピースやダブルブレストで仕立てると雰囲気のでる生地で、オーダー上級者向けです。ともかく仕立て映えする生地のため、クロゼットのスーツが大分増えてきたと感じてきた時に、挑戦してみたい生地です。納得の高級感あるスーツに仕上がります。高品質の2/74双糸を使用し、風合いや素材、肌ざわりの良さも人気の理由です。

まとめ

本当に良いスーツは高価な生地を選ぶだけでは完成しません。最も大切なことは、あなたの「スーツを着る目的にあっているかどうか」です。自分が着たいシーンに合わせて、心地よく着られるかということを念頭に置きながら、生地選びを始めると幅がぐっと広がります。また、ツヤ、強度、軽さ、流行、肌に合うか、どの国のものを着るか?など五感を研ぎ澄ませながら、テイラーとのコミュニケーションを楽しむこともオーダーメードの良さ。会話を楽しんでいるうちに、きっと自分に合った一着が完成しているはずです。よりスーツをこだわりたい人、製作過程を楽しみたい方はオーダースーツにトライしてみてはいかがでしょうか。