オーダースーツを仕立てる!失敗しないためのポイントとは
監修:堀省次(KITTE丸の内店 エリアマネージャー) / 投稿日時:2018.08.15 10:49:11
目次
体型にフィットした着心地のいいスーツや、既製品にはないこだわりの一着を求めるなら、断然オーダースーツがおすすめです。しかし、オーダーメイドだからといって必ず満足できるとは限りません。納得のいくオーダースーツに仕立てるためには、事前にメリットやデメリットを押さえながら、オーダーするポイントをしっかりと把握することが大切。知識を増やすことで満足のいくお気に入りの一着を仕立てることが可能になります。
オーダースーツを仕立てるメリット・デメリット
オーダースーツを作るメリットはさまざまです。体にフィットしたサイズ感や着心地、機能性、シルエットやデザイン、そして細かいパーツ選びまで多岐にわたります。しかし当然のことながら、メリットだけという訳ではありません。デメリットもあるので、オーダーする前にきちんと理解しておきましょう。それがいいオーダースーツを作る第一歩となるのです。
「メリット」
・フィット感の高いスーツが作れる
・生地やデザインにこだわれる
・スーツが長持ちする
・印象を良くできる
「フィット感の高いスーツが作れる」
オーダースーツの最大のメリットは、自分の体型に合ったスーツを作れる点です。既製服にある日本人の標準体型に沿ったサイズは、あくまでも目安でしかなく、人の体型は生まれつきや生活スタイル、食生活などで大きく変わります。例えば、顕著に特殊体型がわかるのはスポーツ選手でしょう。水泳選手なら肩幅が広い、サッカー選手なら太ももが太いなど、体の発達している部分が異なります。そんな体型の違いもオーダースーツならフィット感も高く、悩みを解決することができるのです。
フルオーダーの場合は、採寸したサイズを基にオリジナルの型紙を作りますが、パターンオーダーやイージーオーダーの場合は、用意された型紙の中から体に合うものを選び、サイズ調整をしていきます。
「生地やデザインにこだわれる」
着心地以外の最大の特徴といえば、やはり、デザインや生地にこだわりを持てることでしょう。というのも、単に生地の柄や色を選だけではなく、スーツの襟型やポケットの形、裏地、ボタンの色や素材までカスタマイズできるからです。自分の好みの1着を一から作り上げられるため、スーツを手にしたときの満足度も高いといえます。ビジネスだけでなく自分を表現する手段として、オーダースーツは非常に優れているといえるでしょう。
「スーツが長持ちする」
型紙やサイズが合ったスーツを着用すると長持ちしやすいというメリットがあります。まず、タイトすぎるスーツを着用していると、体に生地がこすれて破れてしまいます。特に、脇の下や股の部分など、負担がかかりやすい部分には注意が必要です。しかし、大きめのサイズのスーツを選んでおけば、生地への負担が軽減されるというわけでもありません。シワやヨレなどができやすくなりスーツの寿命が短くなる傾向にあるのです。上質な生地であれば、糸にしなやかさも加わり、さらに長持ちしやすくなります。
「印象をよくできる」
ビジネスを進める上で「相手にどのような印象を与えるか」というのはとても重要なことです。今や身だしなみや服装に気を配ることは必要不可欠といえるでしょう。ヨレヨレのスーツを着ていたりサイズがまったく合っていないスーツを着用していたりすると、相手からの印象が悪くなってしまいます。自分の好みを程よく取り入れつつも、TPOを意識したスマートな着こなしは周囲から見ても好印象に映るもの。着こなしの配慮から「仕事がデキる人」と相手に思ってもらいやすくなります。
「デメリット」
既製品よりも高価なオーダースーツは、どこがデメリットなのかをきちんと理解すれば、それがメリットの裏返しであることがわかります。デメリットをそのままにせず、きちんと把握することで克服することができます。
デメリット
・選択肢が豊富すぎて迷う
・完成までに時間がかかる
・オーダーサイズより太った場合に直しづらい
・完成するまでイメージがわかりづらい
「選択肢が豊富すぎて迷う」
既製服と異なり、デザイン、生地、色、素材、ボタン、ポケット、裏地、と自分の好みで選べる部分がたくさんあるオーダースーツ。本来メリットですが、決められない人にとってはデメリットになります。選択肢が多いことで面倒に感じる人や、慣れずに戸惑う人にとっては難しく感じるかもしれません。しかし信頼できる友人やパートナー、あるいはテーラーのスタッフと一緒に考えると客観的な意見も聞くことができて楽に選べるようになります。
「完成までに時間がかかる」
オーダースーツの製作にかかる期間は、オーダー方法によって大きく異なります。サンプル服を着用してサイズ調整をしていくパターンオーダーは、最短2週間程度の時間がかかります。これ以上短くなるケースはほとんどありません。さらに既存の型紙をもとに型紙を起こして縫製するイージーオーダーは、3~4週間程度かかります。仮縫いの工程がない製造方法では、この納期が一般的です。一方フルオーダーは生地を裁断してから仮縫いをし、サイズの微調整が完了してから本格的な製作に入るため、納期は1~1カ月半ともっとも長いです。1人のテーラーがカウンセリング、採寸、型紙作成、縫製、仕立てをすべて手作業で行うケースでは2カ月はかかるでしょう。
初めてオーダースーツを着る予定が決まっていない場合は、納期が長くても気にならないかもしれませんが、結婚式やパーティーなど着用する日程が決まっている場合は、その日に間に合うよう逆算して注文しましょう。デメリットではありますが、最高の一着が仕上がるのを待つのも楽しいものです。
「オーダーサイズより太った場合に直しづらい」
体調の変化により、ときにはオーダー時より太ってしまうこともあります。オーダースーツでは、完成品のサイズが実際の体型より小さくなってしまった場合、お直しがとてもしづらいこともあり、この状況を避けるために、初回はほんの少し大きめに作っておいて、完成したあとに微調整することがあります。シルエットが微妙に変わってしまうので、体重の増減があまりない人はジャストフィットサイズで作ることをおすすめします。
「完成するまで分かりづらい」
オーダースーツの大きなデメリットといえば、完成するまでどのように仕上がるかがわからないこと。これは誰もが当然不安になるものです。この不安を克服するには、オーダー時に完成イメージを、きちんと伝えられるかどうかがカギになります。注文者とテーラーの間で、細かい部分までイメージのすり合わせができてこそ納得の完成品に仕上がるのですから。イメージを伝えるのが苦手な人は、オーダーがうまく反映されているか、iPadなどで細かく確認しておきましょう。写真などを撮っておくのも一つの安心材料になるはずです。完成まで仕上がりがわからないのはデメリットですが、テーラーに細かく相談することで、ある程度不安を軽減することができます。
フルオーダーの場合は、採寸から型紙起こし、裁断、縫製までがすべて手仕事です。そのため、職人の技術力で出来上がりが大きく違ってくるのも心配な要素です。その点、パターンオーダーやイージーオーダーでは、あまり大きな差が出る心配はありません。採寸データに基づいて、コンピュータで補正して、機械で裁断や縫製をするマシーンメイドは、一見デメリットのように感じられますが、実は技術のばらつきがないという面ではメリットなのです。いずれも、手ごろな値段で体にフィットしたスーツに仕上げられるので、技術のばらつきが気になるなら、パターンオーダーやイージーオーダーを選ぶとよいでしょう。
生地を選ぶときのポイント
スーツ生地は産地によっても特徴が異なります。産地ごとの特徴を理解すると、自分にあった生地を選べます。毛織物産地としてよく比較されるのがイタリア・イギリス・日本の3か国です。各国の代表的な産地と生地の特徴をご紹介します。
「着用時期を考えておく」
どんな季節に着用するかを考えておくことも大切です。春夏のシーズンは、汗をかきやすいことからオーダースーツではなく、既製服を選ぶことが多いですが、あえてオーダーする場合にはパターンオーダーなど手軽にできるものがいいでしょう。薄手のウール素材であれば3シーズン着用することもできます。
「着用シーンを明確にしておく」
漠然としたイメージのままスーツを作ろうとすると、好きなものだけで選んでしまい、本来スーツを必要とすべきシーンやTPOに合わせた着こなしができないことがあります。スーツを着る目的はビジネス・パーティー・プライベート用など、多岐にわたります。また細かく見ると、着用頻度や移動の有無が変わります。ビジネスでは、就活、外回りの営業、商談、社内での内勤など、使用目的を決めておくと、より適切なスーツ作りが可能になりますので、目的は明確にしておきましょう。
「予算を決めておく」
オーダースーツを作る前に、ある程度の予算を決めておくことは大切です。まず、初めてスーツをオーダーする場合、予算は低めに3万円と見積もっておくと良いでしょう。3万円という予算でも、着心地やサイズ感にこだわったスーツを作ることはできます。ただし、選べる生地のグレードやカスタマイズができる部位が限られてくる場合もあるため注意が必要で
いつも着用しているスーツとは一味違うスーツを着用したいと考える場合、予算は5~7万円程度に設定すると良いでしょう。5~7万円程度でオーダースーツを作る場合、ポケットや襟、裏地など細部のカスタマイズもしやすいです。
高級生地を使ったスーツや、ブランドの付加価値を付けたいという人は予算を10万円以上に設定しておくと良いでしょう。10万円以上の予算があれば、高級感あふれるスーツを仕立てることができます。ビジネススーツだけでなく、高級感があるフォーマルスーツが欲しいという人にも最適です。
「オーダースーツの場合、カスタマイズにお金がかかるケースもある」ということです。選ぶ項目によっては、基本料金に別途料金が必要になります。予算を設定する際には、カスタマイズにかかる費用についても考えておくことが大切です。
採寸のときのポイント
時間がある休日にふらりと入った店で、さらりとオーダースーツを作るというと、スタイリッシュでとてもカッコよく見えるものです。しかし、きちんとした一着を作るなら、突然ではなく、採寸でも準備が必要なので覚えておきましょう。
「普段着用しているYシャツを着ていく」
オーダースーツの採寸をするときに、実はいつも着用しているインナーのバランスも大切な要素になります。生地の厚さや緩み加減などアームホールでの調整が必要になってくるからです。フィットしたスーツを作るときには、Tシャツではなく、着慣れたシャツを着ていくように覚えておきましょう。
「革靴を履いていく」
休日にスーツをオーダーしにいくこともあると思いますが、意外にも、スニーカーではパンツの長さを間違えてしまうことがあります。ソールの高さを加味して床上がりの採寸をしますので、普段使用している革靴を履いて出かけることをおすすめします。
デザインを選ぶときのポイント
スーツ全体の印象を決めるデザインには、いくつか選ぶコツがあります。知識として覚えておけば、より自分が表現したい印象のスーツに仕上げることができます。
「ボタン」
・色
・サイズ
・個数
・種類・素材
「色」
通常ビジネススーツのボタンの素材や色は、着いている場所に関わらずすべて同じデザインにするのが鉄則です。というのも、前ボタンと袖ボタンが異なると正統派なビジネススタイルの印象から外れてしまうからです。さらに好印象に見せるには、ボタンの色をスーツの生地と同系色にすると統一感が出やすくなります。ビジネス用スーツの既成品は、ボタンが悪目立ちしないように暗めの色を使っているケースが多く、モード感のあるスーツにする場合には白などの反対色を使用するのもいいでしょう。カジュアルな印象にするなら、ナットボタンに代表される茶系を選ぶと優しい表情になります。
「サイズ」
スーツのボタンは、ジャケットのフロントと袖の部分、ベストのフロント部分、パンツのフロントとポケットの部分についています。ジャケットのフロントボタンは20mmを使うのが一般的で、スーツについているなかでは一番大きく目立つボタンです。袖には15mmを使用しますのが通例です。
「個数」
スーツにはシングルとダブルがあり、それぞれボタンの数が違います。見た目の雰囲気がガラリと変わりますので、オーダースーツを作るときはボタンの数やスーツのタイプも意識しましょう。まず、モーニングコートやタキシード、ディレクターズスーツなどの礼服、準礼服は、1つボタンが定番です。また礼服以外でも、細身でスタイリッシュなジャケットは1つボタンが多く見られます。ビジネス用のシングルスーツは2つか3つボタンが定番ですが、2000年代に入ってからは2つボタンが主流。仕事で日常使いをするなら2つボタンが無難です。一方、正統派でクラシカルな印象にしたいなら3つボタンがおすすめ。英国調紳士のようなピリッと締まったスタイルに仕上がります。
「種類・素材」
色のほかにスーツの表情を変えるのが、ボタンの種類です。実はスーツの印象を決定づける大切な要素になるので、それぞれの特徴を把握しておきましょう。
天然素材のボタンはそれぞれに独特の風合いがあります。例えばナットボタンは、南米エクアドルのタグワヤシの実が原料。実の中は象牙のような乳白色で、アイボリーナットと呼ばれています。染色できるほか、経年変化するのが特徴です。ネイビーのスーツにナットボタンを合わせるとシックな雰囲気になります。
貝ボタンは、文字通り天然の貝を加工したボタンです。高瀬貝、白蝶貝、黒蝶貝などが原材料として知られています。パールのような光沢と質感が美しく、シャツやドレスなどで使われるケースが多く、少しドレッシーな雰囲気になります。大きめのボタンならスーツに使用でき、特にフォーマルスーツによく合います。
一方、プラスチック樹脂のボタンは染色しやすくデザインが豊富です。加工の技術も上がっていますので、予算などの面から選んでもいいでしょう。
「ラペル」
ビジネスの基本として変化が少ないスーツですが、流行として左右されるのがシルエットと下襟(ラペル)の幅です。太めであればモード、細めであればクールな印象になりますので、そのときのトレンドなどを加味して個性としてのこだわりを表現するのもいいでしょう。また、上襟との切替えになるコージラインの位置もトレンドや年齢によって異なりますので意識することが必要です。
「ポケット」
せっかくオーダースーツを作るなら、ポケットにもこだわりを入れてみましょう。ビジネススーツの定番といえるフラップポケットは蓋のついたポケットで、床と平行の角度でついています。雨蓋ポケットとその名のとおり、もともとはポケット内に雨やホコリが入るのを防ぐためにつけられたもの。フラップポケットを斜めにしたのがスラントポケットです。イギリスの乗馬服から始まったとされており、斜めのカットがスリム体型に見せてくれます。スラントポケットと同様、英国発祥なのがチェンジポケットです。フラップポケットの上にもうひとつ、フラップポケットがついています。小銭を入れるためのポケットとして作られましたが、現在はおしゃれなデザインとしても定着しています。
「パンツ・スラックス」
スーツにシングルとダブルがあるように、パンツの裾にもシングルとダブルがあります。礼服は裾を内側に折り込んだシングルが鉄則で、細身のスーツもシングルでシャープに仕上げるのが定番とされています。裾を外側に折り返したダブルは、ビジネスで個性を出したい人に向いていますが、カジュアル感もあるので、取り入れるときには気をつけましょう。背が低い人は足が短く見える可能性があるので、シングルの方がバランスを取りやすいです。
「裏地」
オーダースーツで選べるのは、表の生地だけではありません。裏地も選ぶことができます。メーカーによって選べる種類は異なりますが、何十種類というなかから好きなものを選べといわれると、悩んでしまいがちですが、ベーシックに仕上げるなら同色か、同系色の濃淡にて選ぶと落ち着きます。裏地はジャケットを脱いだ時にとても目立つので、手を抜かずしっかりと選びましょう。
まとめ
スーツのなかでも敷居が高いと言われているオーダースーツ。長い間ビジネスマンの憧れの戦闘服とされていましたが、現代では価格もリーズナブルになり、チャレンジしやすいアイテムとなりました。オーダーすると時間はかかりますが、ひとつひとつ丁寧に決めて自分らしさを追求するスタイルは、時代が変化しつつある社会にマッチしています。メリット・デメリットをしっかりと把握することで、失敗せずに「個」を自由に表現できるオーダースーツを手にしてみてはいかがでしょうか?