STYLING GUIDE

「カノニコ」はクラシカルさとトレンドを併せ持つワンランク上のイタリア生地

投稿日時:2022.03.24 18:55:02

「CANONICO」はカノニコと読みます。


キャノニコと発声する方もいらっしゃいますが、洋服屋さんやテーラーの店頭では、どちらでも通用します。


正式名は「VITALE BARMERIS CANONICO」で、ヴィターレ・バルベリス・カノニコと読みます。


「カノニコ」は古い歴史を持つイタリアの老舗で、原料の調達から紡績、織りから染色整理まで一貫して行うメーカーです。


歴史が評価されるだけで無く、ファッションの最前線で常に存在感を示して、世界中のテーラーだけでなく、「アルマーニ」「ラルフローレン」「ヒューゴボス」等の一流アパレル製品で、「カノニコ」の素材が多く使用されています。


日本のブランドアパレルでも、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」や、「オンワード樫山」など、人気の有る多くの一流所が、「カノニコ」素材を使った既製品を店頭に並べています。


力の有るアパレルには、数多くの素材メーカーから、毎シーズン多くの生地提案が行われます。


価格志向の強いアパレルは、製品の中で原価の比率が高い表地生地を、少しでも安価に手配する事が重要ですが、自社イメージが確立されている「看板」を大切にするアパレルでは、自社ブランドに見合った「品質」を何より大切にしていて、その上でコストパフォーマンスを求めます。


一流ブランドのデザイナーは、イメージの具現化のため、素材メーカーにそれ以上のプラスアルファを求めます。


トレンドを意識した最新の感度と、それを生地に落とし込む対応力とスピード等が必要で、世界を相手にするアパレルの数量に、高い品質で応える生産能力のバックボーンが無ければ成り立ちません。


ウール素材の最高峰「エルメネジルド・ゼニア社」も、自社ブランドの一部を「カノニコ」に委託していることからも、その品質の高さと生産能力が窺えます。


「カノニコ」の素材は、イタリア素材らしい柔らかな着心地を持ちながら、高いコストパフォーマンスが備わった、ワンランク上のお洒落を楽しむ事が出来て、オーダースーツ・ジャケット等にオススメです。

ブランドの歴史

「カノニコ」は1663年まで遡ることが出来る、長い歴史を持つイタリアの毛織物メーカーです。


1800年代後半になると、産業革命の波と相まって、近代化を一気に進めます。


当時の責任者ジュゼッペ・バルバリス・カノニコ氏は、19世紀の終わり頃には、紡錘(糸作成)数800、織機73台の規模になって、紡績・織りから染色、最終仕上げまで一貫してプラトゥリヴェーロの工業施設内で行えるようになっています。


1890年頃以降には、最先端の自動織機を導入して、電力化をいち早く実現。


トゥリヴェーロ地区に新たな2工場を設け、1920年代には高い品質が評判を呼び、「カノニコ」のウール素材は、イタリアだけでなくヨーロッパの国々を魅了し、アメリカやインドなど、世界中への輸出基板を確立しています。


順調に発展してきましたが、世界恐慌と戦争はファッションの流通を許さず、残念ながら一旦は解散する事になります。 その後、1936年には今に繋がる「ヴィターレ・バルベリス・カノニコ社」として復活を遂げます。


20世紀半ば頃には、かつての生産技術を大幅に発展させて、イタリアを代表する企業の一つになっています。


1970年代になると、ヴィターレの息子二人、アルベルトとルチアーノが事業を引継、近代的な株式組織にすると共に、現代に繋がる海外輸出基盤を定着させています。


2013年に創業から350周年を迎えた「カノニコ」は、膨大なファッションアーカイブスを持ち、そこからのインスピレーションを大切にした「ものづくり」は、トレンドを構築する企業にとって、欠かせないものになっています。

織物の基本知識

「カノニコ」の品質の高さを理解するために、役に立つ織物の基本的な知識を見ていきましょう。


素材としてのテキスタイル善し悪しは、多くの複合的な要素で構成されています。


基本として、「どれくらいの太さの糸」を、「どれくらいの密度」で、「どんな組織(織り方)」をするか?をおさえる事です。


糸の太さ

太い糸を使えれば、ザックリとしたテキスタイルに仕上がり、細い糸を使用すれば繊細な仕上がりになります。


スーツ地としては、主に2/48から2/80程度の糸番手が使われます。 数字が大きくなるほど細い糸を表します。 2/80のことを80双糸(そうし)と読みます。


羊毛は2本の糸を撚(よ)って(ねじり上げるイメージです)、織物に用いられます。


双糸にする事により、安定した均一な太さになるため、一般的なウール素材に使われています。


1本の糸を撚って使う、単糸使いの織物もあります。 1/30と表記して30単糸と読みます。


1/30と2/60は同じ太さになります。 双糸と比較して均一感が劣る事を逆手に取り、織物に表情を加える事に多く用いられます。


羊毛の原料グレード(繊細さ)によって、糸の太さに用いる事の出来る限度があります。


細番手の糸を製造するのには、原料の繊細さが必要になります。


当然原料が繊細ならば、コストは高くなります。


本来織物は芸術では無く営利目的で製造されるので、よりコストの安い羊毛原料を使用して、如何に細い糸を作成するかに力を集中します。


しかし上質な素材は、これらのセオリーを無視して製造されています。


本来であれば2/80番手の製造が可能な上質原料を用いて、2/48や2/60番手を製造にすることにより、「滑らかさ」「上質な手触り」を表現しています。


同じウールの生地でも、中国産を中心とした普及品とブランド生地の差は、このような違いがあります。


よく誤解されるのは、「super100’」や「super120’」を糸の細さと解説されている事です。


これらは原料の繊細さを表していて、糸の太さではありません。 中身は多くの差が存在していて、同じ「super100’」と表示されていても、個別に比較すれば大きな優劣が存在します。


数値的には同じ繊細さを持つ原料でも、羊毛本来の持つ「クリンプ」と呼ばれる縮れが、織物の仕上がり品質に大きな影響を与えます。


上質なクリンプを持つ原料は、弾力性に富み、優れた張りコシとシワからの回復力に繋がります。


上質なウールは、着用した後で適正にハンガーに掛けておけば、シワが自然に回復するのは「クリンプ」が大きな役割を果たしています。


密度

「打ち込み本数」と呼ばれています。


決められた範囲に、縦横どれくらいの糸が入っているのか?ということが、生地の仕上がりには、大きく影響します。


「打ち込み本数」は、少なければソフトになる反面、特にメンズでは必要な張りコシが無くなり、物性的な問題(縫い目から裂ける等)が出ます。


逆に「打ち込み本数」が多ければ、張りコシが出て物性的な問題も解決出来ますが、全体的には固くなってしまいます。


上質なブランド素材は、「打ち込み本数」が多くなっても、使う糸の上質さで固くなる事が無く、「張りコシ」がありながら、「しなやかさ」を出す事を両立させています。


「打ち込み本数」は、コストに直接反映されます。


「打ち込み本数」が多くなれば、同じメーター数を織り上げるのに時間が掛かるためです。


コストを考えれば、打ち込むスピードが速ければ速いほど、生産効率は上がります。


しかし、早いスピードで糸を飛ばせばテンションが掛かり、羊毛の持つ素晴らしい特性のクリンプが持つ効果は減少してしまいます。


上質なブランド素材は、生産効率が落ちてコストが上昇しても、クリンプ特性に最適なテンションに収まるスピードを選択することで、高い品質を生み出します。


織り組織

大きく分けて、「平織り」「綾織り」「繻子(しゅす)織り」があります。


平織りは、主に春夏に使われる清涼感が出る軽量な織物で、最も基本的な織り方であり、使っている糸の品質がダイレクトに出ます。 トロピカルウールと呼ばれます。


同じトロピカルウールでも、上質なブランド素材は、原料の良さと適正な「打ち込み本数」によって、中国を中心とした普及品とは確実に大きな差が出ます。


伝統的な春夏素材として、上質なブランド素材は「綾織り」を用いる事があります。


「綾織り」ではトロピカルウールと比較して、織物に重量が付くため、細番手の糸が使われます。 清涼感を持たせるため、撚糸回数を増加させた強撚糸を使う事もあります。


どちらの手段も、コストが掛かる手法です。


「綾織り」「繻子織り」は比較的重量を付けやすいため、主に秋冬素材として使われます。


コストを考えれば、太番手糸をシンプルな綾織りで仕上げる事で、秋冬の利用に使える生地には仕上がります。


上質なブランド素材は、敢えて品質の高い細番手糸を用いて、織り組織に変化を持たせることによって、秋冬の利用に使える重量感の構築をします。 上質な原料糸をたっぷり使うので、必然的にコストは高くなります。

カノニコ素材の特徴

世界40カ国以上に輸出されている、品質の高さで定評のある「カノニコ」は、歴史に裏打ちされたクラシカルな良さが有りながら、トレンドを先取りした華やかさを持つバランスの良さがあります。


イタリア素材らしく、軽く滑らかで、しなやかな質感を持ち、美しい光沢感と発色の良さが有ります。


定番的なカラー色柄から、個性的で主張が有る色柄まで、多彩なバリエーションを展開していることでも定評があります。


特に紺系は人気が高く、質感重視のオーソドックスな紺から、艶やかなネイビーブルー系まで多くの提案があり、派手目のカラーでも、絶妙な色柄でトレンドに昇華させる能力は、他の追従を許しません。 多くの展開する色柄に、「カノニコ」の長い歴史の蓄積が存分に発揮されています。


「カノニコ」の良さは、ジャストサイズに仕立てる事で、歴史を纏う自分だけの掛け替えのない1着になります。

秋冬のカノニコ素材

クラッシック(CLASSICS)

「カノニコ」自身の言葉を借りれば、“偉大なる繊維の伝統からインスピレーションを得て、それでいながら常に一歩先を行くファッションの基準点がここにあります”という、誇り高き「クラッシック」ラインを展開しています。


膨大な過去の資料からインスパイアされた、現代のトレンドを加味したトラディショナルな雰囲気を持つ事は共通していますが、ソフトな風合いからザックリした風合いなど、幅広い商品展開の中で、一貫生産出来る強みを活かした、完成度の高い素材感が評価され、世界中数多くのテーラーやアパレルで、使われています。

Super100'sの原毛で、比較的太番手の糸を作成することで、ビンテージ風の色柄を構築しながら、華やかで綺麗な発色を持たせています。


織り上がった織物を、何度も時間を掛けて洗い込む縮絨の工程で毛足を立たせ、その後に均一に刈り込む事で、美しい艶と品格が醸し出されます。


カントリー風のデザインを入れて遊び心を出したり、トラディショナルなデザインで、いつまでも着用出来る普遍性を出したりなど、オーダーだからこそ出来る、自分だけの一着を作成出来る素材として、男女ともに人気が有ります。

上下で作成しても、アイテム単品利用で幅広い活用が出来て、着用回数が増える利便性があり、お洒落なオフィスカジュアルにも最適です。


Super110'S

SUPER'110S原料で作成された、「カノニコ」の看板とも言える定番商品です。


シーズンを問わずに年間を通して着用出来る、汎用性の高いタイプも多く、実用的なビジネススーツ用の定番素材として、世界中のアパレルやテーラーで人気を博しています。


定番としての人気の高さは、コストパフォーマンスの良さだけでなく、ビジネス用途としての適度なしなやかさと耐久性を持ち、オーソドックスな色柄の中にも、品の良いお洒落感が有る事です。


生地のウエイトや色柄に、多くのバリエーションがあります。

単独のカラーだけを構成する糸で見れば、派手な印象がありますが、同系色でお洒落にまとめているのは、歴史がなせる技です。


定番と一口に言っても、「カノニコ」の場合は歴史に安住せず、ひと味違った色柄提案が魅力で、ビジネスシーンを華麗に演出します。


Super120'S

「Super120'S」は17.5ミクロンの極細原料を使用したシリーズで、定番の「Super110'S」のワンランク上に位置するシリーズです。


差別化したい、「ハイブランド」アパレルにも多く採用されている品質は折り紙付きで、世界中で多くのファンを魅了しています。


春夏素材も展開しています。

一般的なウール素材のスーツ地で、最も製造コストが掛かるのは、梳毛(コートなどに利用する太い糸ではなく、スーツ用の細い糸)のフラノです。


特に繊細な原料を使用した細番手糸のフラノは、高額な糸を大量に打ち込む必要が有り、仕上げ起毛工程の縮絨(洗い込み)にも、多大な時間とコストが掛かります。


織物はm単価が設定されていて取引されますが、梳毛のフラノは高額な原料糸を惜しみなくつぎ込んでも、他の織物と比較してギュッと圧縮して毛足を出現させる事で、仕上がりm数は減少するので、m単価は必然的に高額になります。

この要件を満たす、イタリアのブランド素材でスーツを仕立てれば、簡単に十万円以上の価格になりますが、「カノニコ」では同じタイプでも一桁少ない負担で、極上の風合い・肌触りなどの素材の良さを活かした、上質なスーツが楽しめます。

春夏のカノニコ素材

21Micron(21マイクロン)

糸では無く、原料の羊毛自体の繊維の太さを表す21ミクロンの商品です。


英語表記の「micron」は、日本語読みだと「マイクロン」と表記されることも有りますし、「ミクロン」と表記されることも有り、どちらも正解です。


「カノニコ」を含めて、イタリア産の高級素材の多くは、繊細な原料を使うことが、その特徴の一つになっています。


Super100'SやSuper120'Sなどのラベル表記は、如何に繊細な原料を使った織物で有る事を雄弁に語っていて、Super100'Sでは18.5ミクロン程度、Super120'Sでは17.5ミクロン程度の原毛を使用しています。


21ミクロンは、それらのタイプよりも明らかに原料が太く、同様の表記をするなら(していませんが)Super50'S程度になります。


イタリア高級素材の多くは、オーストラリア・ニュージーランドのメリノ種羊を原料に使う事が多いですが、「21Micron」では敢えて南アメリカ産のウールを使っています。


理由は明快で、「ドライな手触り」「卓越した耐久性」「シワになりにくい強さ」を具現化するためです。


イタリア流のエレガントとは全く違うコンセプトを、原料の吟味から考え方を変えて、実用性と時間耐久性が伴う、今までに無い新しいイタリア流のお洒落を提案しています。

21ミクロン原料で作成される細番手糸を強撚(複数の糸の撚糸する回数を大幅に増やすこと)する事で、硬質な表情のある糸を作り、その糸を並べて織るナナコ織りです。


強靱さとハリコシが一見して感じられる、通常のイタリア素材とは異なる良さがあり、シワになりにくく、通気性が優れている実用的な良さに、ザックリとした表情のあるファッション性が加わっています。


素材自体に存在感があるので、上下のスーツにネクタイを着用して、ビシッと決めても様になりますし、クールビズなどのオフィスカジュアル用に、ポロシャツを合わせても決まります。


単品ジャケットや単品スラックスとしても、コーディネートが楽しめ、非常に着用頻度が高く便利です。


きちんと肩パッドを入れたテーラード仕立てや、肩パッドや付属品を極力廃した軽量仕立てのどちらでも対応が出来て、出来上がりの雰囲気が大いに変わります。


男性用だけで無く、女性用のオーダー素材としても人気が有ります。


春夏物だけで無く、秋冬素材もあります。


Super120'S

人気の高い「Super120'S」は、秋冬だけでは無く春夏素材も展開しています。


上質な原料に拘り、「カノニコ」のサマーコレクションでは一番人気の定番になっています。


実際に着用すると、軽量に仕上げた素材感以上に軽快感があって身体に馴染み、美しいドレープ(落ち感)と光沢感があり、日本の夏のビジネスシーンでも、お洒落かつ快適に過ごすことが出来ます。

美しい光沢感は、上質な原料を使用した細番手糸ならではです。

定番でありながら、主張を感じさせる華やかなカラートーンは、「カノニコ」の真骨頂と言え、オーダースーツなら、贅沢な上質感をリーズナブルに楽しむ事が出来ます。


CANONICOの生地詳細を見る>>

まとめ

数多くの部品を使用する自動車は、ワンオフや数台作成だけだと数億円は下らない価格になりますが、量産することで同じ部品や工程で製造しても、数百万円の価格で収まります。


数多い工程を持つウール織物も、同じ原料や工程・品質でも、その生産背景によって価格は大きく異なってきます。


膨大な歴史から得られるノウハウを、世界有数の生産規模によって、ファッション性とリーズナブルな価格を、高レベルで両立させているのが「カノニコ」です。


世界中のアパレルで採用され、テーラーにも欠かすことが出来ないポジションを築き上げたのは、ある意味必然とも言えます。


「カノニコ」の素材で作成した、ジャストサイズのオーダーは、価格を大きく超えた価値をもたらします。