裏地で有名なベンベルグ®とは?特徴や生地の魅力、違いを旭化成様にお聞きしました
2020.03.30
2020.03.30
ベンベルグは、「高級裏地」というイメージを持つ方や、中にはキュプラは知っているけどそもそもベンベルグについてはあまり知らないという方もいるかもしれません。そこで、今回はベンベルグを生産されている旭化成様に特徴やお手入れ方法、そしてベンベルグの歴史を取材させていただき、ご紹介致します。
・ベンベルグとは
ベンベルグとはコットンから生まれた再生セルロース繊維「キュプラ」のブランドです。ベンベルグは旭化成が持つ商標名であり、旭化成は世界で唯一キュプラを製造している企業です。ベンベルグを用いた裏地は、世界中の一流アパレルでも使用されています。
・ベンベルグの特長
ベンベルグは、滑りが良く、なめらかな風合いと、絹のような光沢があります。ポリエステルよりも吸放湿性が格段に優れているため、さらりとした肌触りでムレやべたつきを抑えます。また、ベンベルグは天然由来の原料で廃棄後も生分解されて土に戻るため、環境にも優しい素材といえます。
・ベンベルグの製造方法
ベンベルグの原料は、「コットンリンター」と呼ばれるコットンの種の周りに生えたうぶ毛です。このコットンリンターを旭化成独自の技術で、精製・溶解して、ピュアな精製繊維として生まれ変わらせています。
素材にも多くの種類があり、どのような違いがあるのか
ベンベルグと他の素材の特徴について、見ていきます。
・繊維の断面
ベンベルグは、レーヨンやシルク、コットンと比較しても、繊維の断面が丸く、表面もなめらかです。そのため肌への刺激が少なく、なめらかな着心地を実現します。
・どのようなアイテムに使われるか
基本的には、一年を通して、スーツやジャケット、パンツなど、どんなアイテムにも使うことができます。特に、ベンベルグは滑りや肌触りの良さから、直接肌に触れる機会が多い、スーツの裏地としても多用されています。またベンベルグはポリエステルと比べ、吸湿性・吸湿性に優れ、ムレにくい素材です。そのため太もも部分が裏地に当たるパンツでは、履き心地の違いを実感できるでしょう。
・ベンベルグが使用されているスーツの特徴と強み
スーツは体に沿うようなシルエットが基本なので、必然的に密着する面積が広くなります。そのため着心地を左右する裏地の素材がかなり重要だといえるでしょう。そこで、裏地に滑らかな肌触りが特徴のベンベルグをお使いいただくことで、スムーズな着脱が可能になります。また、湿気を吸ってはきだす吸湿性・放湿性に優れ、ムレやべたつきを抑えて、汗ばむ夏の時期も快適な着心地を実現します。さらに、光沢にも優れているので、ビジネスシーンにおいて上品な見た目を演出できるところも大きな魅力です。発色が良く、柄や色も入れやすいのでファッション性の観点でも優れているといえるでしょう。
そのような機能性とファッション性を兼ね備えたベンベルグは、現在では、世界中の高級ブランドにも使われています。
ベンベルグを長く愛用するために普段のお手入れが大切です。ここでは、ベンベルグのお手入れのコツや、そもそも「洗濯はできるのか」について解説します。
・お手入れの方法
一般的なスーツなどの衣類であれば、直射日光を避けて風通しの良いところに、ハンガーで吊るしておきましょう。この際、肩にしっかりと入るハンガーを使うとよいです。また、1日置きにスーツを着るなど、連続して着ないこともベンベルグの傷みを防ぐ有効な対策になります。
ベンベルグ(キュプラ)は、繊維の中に水分を取り込む量が多いので、大量に汗をかいて放置すると水じみになってしまう場合もあります。また、デリケートな素材であるため、ベルトのバックル部分が当たって擦り切れる、摩耗や強度といった面で傷ついてしまう、といったケースも。普段からきちんとお手入れを行いましょう。
・洗濯はできるの?
ベンベルグは、基本的に洗濯表示に従うのが好ましいです。一部、洗濯を推奨しているものもありますが、ベンベルグの裏地単体はドライクリーニングを推奨しています。また、スーツは基本、クリーニングに出すのが良いでしょう。
ベンベルグについてさらに詳しく知っていただくために、ここでは、旭化成のベンベルグがどのような歩みを経て、一般消費者へと広まったのか歴史を振り返ります。また、創業当時から現在まで変わらない作り手の想いも併せてご紹介していきます。
・ベンベルグの来歴
19世紀末にキュプラ(ベンベルグ)という繊維がドイツで生まれました。そこから、1928年に旭化成が、ドイツからベンベルグの紡糸方法の技術を導入し、1931年に宮崎県延岡市に「ベンベルグ工場」を設立。以来、自然環境を大切にしながら品質の向上と用途の拡大に努めてきました。旭化成のベンベルグは、約90年にわたりその品質が世界で認められ続けてきた繊維です。
日本国内では、50年代ごろから裏地用途として広まり、当時のテレビコマーシャルも多く残っています。みなさんの中には、「CMで見たことがある」と懐かしく思う方や、「ベンベルグはキュプラのブランド名」ということも知らなかったという方もいるのではないでしょうか?
さらに興味を深めていただくために、ベンベルグ生みの親である旭化成と、そのベンベルグを採用しているオーダースーツブランドDIFFERENCEの方にベンベルグに対する想いや、その魅力についてお聞きしました。
・旭化成様のベンベルグや服に対する想い
裏地は表地に比べて、決して表に出る素材ではない。正直あまりお金をかける部分ではないし、消費者もなかなか裏地を気にされることはないでしょう。
だけど、どんな高級ブランドでも肌に触れているのは裏地なんですよね。消費者は、裏地を通して服の着心地を感じている。その感度は実はものすごく重要だと私たちは考えています。だからこそ、表地や服全体の着心地を後押しできるような素材であってほしい。さらに消費者には、「何かいいなと思ったら、キュプラだった。」そう感じてもらえる存在でありたいと考えています。
取材に応じてくださったベンベルグ事業部ご担当者様
ベンベルグであれば、「裏地がついていることさえ意識させない滑りの良さ」を体感していただけます。例えば、ズボンの前の部分に裏地が実は付いているんですけど、夏場男性ですと、汗で結構突っ張っちゃうんですよ。そうすると、「ああ、裏地がついているな」と分かる。でも、ベンベルグは本当に着心地がよくて、裏地がついていることさえ分からないという感覚になります。決して主張はしないけれど、ものすごく着心地に影響を与えるもの。
だからこそ、私たちは、これからも時代の動きに合わせて、お客様のニーズに合った裏地の生地開発や研究を日々突き進めていきたいと考えています。
・地球の環境、そして伝統を守り続ける素材
取材に応じてくださったベンベルグ事業部ご担当者様
ファッション業界は、世界で2番目に環境に悪い業界と言われています。世界のファッション業界では、既に環境を意識した「サステナブル」、つまり持続可能な活動が注目されつつありますが、逆に日本のファッション業界は遅れています。そのような中、私たちは、日本発祥で1931年の当時から、サステナブルなものづくりをしてきました。
「ベンベルグ」は、そういう「環境への配慮をしている素材」ということをぜひ、覚えておいていただきたい。消費者のマインドも、環境に配慮した製品を高くても受け入れるという消費行動までは行っていない気がします。ただ、いずれ時代の流れは、生産者も消費者も環境について考え、行動に移していくことが求められると思います。
そんな時代になっても、ベンベルグを世界で使っていただきたい。そのために、私たちは、環境に配慮した素材を打ち出せるよう準備しているところです。
また、ベンベルグの原料コットンリンターの一部は、インドから輸入しています。そのインドのコットンビジネスの副産物を旭化成の技術によって、インドの民族衣装「サリー」などの用途の糸として売っています。このように、インドでも伝統的な衣装を快適に生まれ変わらせることで、着る機会が増え、新しい形で伝統を守るのに役立っています。
人を想う快適な着心地と、地球環境への優しさを形にしたベンベルグ。
そのベンベルグを、スーツに取り入れているDIFFERENCEでぜひ、着心地を体感していただきたいです。
DIFFERENCEテイラー石川(青山店 エリアマネージャー)
近年、スーツ離れが叫ばれている世の中ですが、スーツを着るシーンは重要なシーンが多くなってきています。例えば、着用シーンが仕事だけではなく、大切な友人の結婚式や食事、旅行など、非日常にも広がりつつある。そういう特別な時に着るスーツだからこそ、裏地にこだわってほしいです。裏地の良し悪しで、歩く姿やシルエットを含め、スーツの美しさは変わってきます。そういう視点で裏地も気にかけてほしい。そして、スーツ=仕事の服ではなく、「本当のおしゃれ着」という感覚で見ていただきたいです。
「スーツがおしゃれ着」という認識が広がると、オーダースーツなど、本当に身体にフィットしたパーソナルなものを選ぶ人が増えるのではないでしょうか。そうであれば、裏地にもこだわって楽しんで着ていただきたいと思います。着心地や個性を求めるならば、ベンベルグがぴったりです。
通気性にも優れ、また色柄も種類が豊富です。べンベルグは、環境への配慮もあります。環境に配慮した取り組みをしている会社も増えてきましたが、ファッションも、徐々にエコやスローな考えが世の中に浸透していくのではないでしょうか。ぜひ、一度着てみて、裏地にベンベルグを使用したコナカのオーダースーツブランド「DIFFERENCE」のスーツの魅力を肌で感じていただきたいと思います。
【取材ご協力】旭化成「ベンベルグ 裏地ミュージアム+」
今回取材をさせていただいたのは、旭化成が運営するベンベルグ裏地ミュージアム+です。「ベンベルグ」裏地の歴史を振り返りつつ、裏地の未来を考える場として2014年10月の開設以来4,700名を超えるお客様がご来場されています。
「ベンベルグ 裏地ミュージアム」は、ご来場をきっかけにお客様との関係をより深め、新商品の開発ニーズや各種ご要望をお聴きし、コミュニケーションを深める場とすることを目指されています。
(※見学はアパレル・小売・流通などの業界関係者に限定して公開している施設です。)