「トラバルドトーニャ」は天然素材だけで機能性を実現した高級イタリア生地
目次
「TRABALDO TOGNA」は、トラバルドトーニャと読みます。
イタリアのビエラに1840年に設立された、名門老舗の高級服地メーカーです。
紡績から織物の完成まで自社で一貫生産をしていて、厳選された高品質な原料を使用した、細番手の梳毛素材に特化しています。
歴史と伝統を背景にした、ハイグレードな「ものづくり」を行っています。
「トラバルドトーニャ」が、ビエラ地区にある他の歴史を重ねたブランド生地メーカーと決定的に違うのは、高級素材でありながら、ストレッチという「機能性」を追求している事が挙げられます。
2000年頃まで服地の世界では、「機能性」を持たせる事は、比較的安価な普及品に限られていました。
今でこそ、高級素材の中に「機能性」を謳うものは決して珍しくありませんが、当時はファッション性と「機能性」は完全に切り分けられていて、高級品にとっては邪道という考え方が一般的でした。
この流れを変えたのが、「トラバルドトーニャ」の「エストラート」です。
これは、天然素材だけで製造された高級織物に、ストレッチ性を持たせたものです。
「トラバルドトーニャ」が生産する天然素材は、全てストレッチという「機能性」を持っています。
ブランドの歴史
「トラバルドトーニャ」の歴史は、1840年の設立以来、現在まで5世代に渡っています。
老舗織物メーカーが多い北イタリアのビエラ地区でも、指折りの歴史を持っています。
1840年に2つの商家のトラバルド家とトグナ家によって、イギリスからションヘルと呼ばれる機織り機を輸入して、織物製造を始めました。
1870年のイタリア統一を経て、会社は順調に発展を遂げ、第2世代に変わった事を機に現在の場所に移転します。1900年代に入ると、会社を引き継いだ第3世代によって4つの支店・3,000人以上を雇用するイタリアの羊毛メーカーとして最大規模になっています。
20世紀半ばを迎えると第4世代に引き継がれて、工場はさらに拡大、原毛から織物仕上げまで一貫生産のシステムが完成します。
21世紀になると第5世代に引き継がれて、長年研究を重ねてきた、天然繊維だけによる高級素材にストレッチ性を持たせる技術が完成して、新たなマーケットを切り開きました。
織物の基本知識
「トラバルドトーニャ」の品質の高さを理解するために、役に立つ織物の基本的な知識を見ていきましょう。
素材としてのテキスタイル善し悪しは、多くの複合的な要素で構成されています。
基本として、「どれくらいの太さの糸」を、「どれくらいの密度」で、「どんな組織(織り方)」をするか?をおさえる事です。
糸の太さ
太い糸を使えれば、ザックリとしたテキスタイルに仕上がり、細い糸を使用すれば繊細な仕上がりになります。
スーツ地としては、主に2/48から2/80程度の糸番手が使われます。数字が大きくなるほど細い糸を表します。2/80のことを80双糸(そうし)と読みます。
羊毛は2本の糸を撚(よ)って(ねじり上げるイメージです)、織物に用いられます。
双糸にする事により、安定した均一な太さになるため、一般的なウール素材に使われています。
1本の糸を撚って使う、単糸使いの織物もあります。1/30と表記して30単糸と読みます。
1/30と2/60は同じ太さになります。双糸と比較して均一感が劣る事を逆手に取り、織物に表情を加える事に多く用いられます。
羊毛の原料グレード(繊細さ)によって、糸の太さに用いる事の出来る限度があります。
細番手の糸を製造するのには、原料の繊細さが必要になります。
当然原料が繊細ならば、コストは高くなります。
本来織物は芸術では無く営利目的で製造されるので、よりコストの安い羊毛原料を使用して、如何に細い糸を作成するかに力を集中します。
しかし上質な素材は、これらのセオリーを無視して製造されています。
本来であれば2/80番手の製造が可能な上質原料を用いて、2/48や2/60番手を製造にすることにより、「滑らかさ」「上質な手触り」を表現しています。
同じウールの生地でも、中国産を中心とした普及品とブランド生地の差は、このような違いがあります。
よく誤解されるのは、「super100’」や「super120’」を糸の細さと解説されている事です。
これらは原料の繊細さを表していて、糸の太さではありません。中身は多くの差が存在していて、同じ「super100’」と表示されていても、個別に比較すれば大きな優劣が存在します。
数値的には同じ繊細さを持つ原料でも、羊毛本来の持つ「クリンプ」と呼ばれる縮れが、織物の仕上がり品質に大きな影響を与えます。
上質なクリンプを持つ原料は、弾力性に富み、優れた張りコシとシワからの回復力に繋がります。
上質なウールは、着用した後で適正にハンガーに掛けておけば、シワが自然に回復するのは「クリンプ」が大きな役割を果たしています。
密度
「打ち込み本数」と呼ばれています。
決められた範囲に、縦横どれくらいの糸が入っているのか?ということが、生地の仕上がりには、大きく影響します。
「打ち込み本数」は、少なければソフトになる反面、特にメンズでは必要な張りコシが無くなり、物性的な問題(縫い目から裂ける等)が出ます。
逆に「打ち込み本数」が多ければ、張りコシが出て物性的な問題も解決出来ますが、全体的には固くなってしまいます。
上質なブランド素材は、「打ち込み本数」が多くなっても、使う糸の上質さで固くなる事が無く、「張りコシ」がありながら、「しなやかさ」を出す事を両立させています。
「打ち込み本数」は、コストに直接反映されます。
「打ち込み本数」が多くなれば、同じメーター数を織り上げるのに時間が掛かるためです。
コストを考えれば、打ち込むスピードが速ければ速いほど、生産効率は上がります。
しかし、早いスピードで糸を飛ばせばテンションが掛かり、羊毛の持つ素晴らしい特性のクリンプが持つ効果は減少してしまいます。
上質なブランド素材は、生産効率が落ちてコストが上昇しても、クリンプ特性に最適なテンションに収まるスピードを選択することで、高い品質を生み出します。
織り組織
大きく分けて、「平織り」「綾織り」「繻子(しゅす)織り」があります。
平織りは、主に春夏に使われる清涼感が出る軽量な織物で、最も基本的な織り方であり、使っている糸の品質がダイレクトに出ます。トロピカルウールと呼ばれます。
同じトロピカルウールでも、上質なブランド素材は、原料の良さと適正な「打ち込み本数」によって、中国を中心とした普及品とは確実に大きな差が出ます。
伝統的な春夏素材として、上質なブランド素材は「綾織り」を用いる事があります。
「綾織り」ではトロピカルウールと比較して、織物に重量が付くため、細番手の糸が使われます。清涼感を持たせるため、撚糸回数を増加させた強撚糸を使う事もあります。
どちらの手段も、コストが掛かる手法です。
「綾織り」「繻子織り」は比較的重量を付けやすいため、主に秋冬素材として使われます。
コストを考えれば、太番手糸をシンプルな綾織りで仕上げる事で、秋冬の利用に使える生地には仕上がります。
上質なブランド素材は、敢えて品質の高い細番手糸を用いて、織り組織に変化を持たせることによって、秋冬の利用に使える重量感の構築をします。上質な原料糸をたっぷり使うので、必然的にコストは高くなります。
トラバルドトーニャ素材の特徴
長い歴史の中から、インスピレーションで生み出される、自社で厳選された原料を使った品質の高い素材は、それだけで魅力充分ですが、天然素材だけで生み出される「ストレッチ性」をすべての素材に付与している事が、「トラバルドトーニャ」の大きな特徴です。
17.5ミクロンのSUPER120’s から始まった天然素材のストレッチは、14.5ミクロンのSUPER180’sや16.0ミクロンのSUPER150’sの様な、繊細な原料を使用する梳毛ウールにまで広がり、モヘア・シルク・カシミヤ等の素材にも、ストレッチ性を持たせるまでに発展しています。
ストレッチ性を考える
ストレッチというのは、伸びるという事です。
しかし、スーツやジャケット、スラックスなどの重衣料に用いられる場合、伸びるだけでは駄目で、元にしっかりと戻る事も同じくらい重要です。
伸ばす事だけなら比較的容易に出来ますが、キックバック性と呼ばれる元に戻る事の方が難しい技術です。キックバックを備えるものだけが、織物では「ストレッチ」を名乗ることが出来ます。
着心地と利便性にストレッチ性が関係するのは、基本的に横方向の伸びです。
中には、縦方向にストレッチ性を持たせたものも有ります。
何%伸びればストレッチ性が有る?
基本的に天然素材である通常の綿や麻、シルクなどにはストレッチ性は有りません。
ウールは、原料自体にクリンプと呼ばれる縮れがあるため、天然のストレッチ性を有しています。
しかし、通常のウール織物では「ストレッチ性」を標榜するだけの動きは出ません。
それでは、何%のストレッチ性が有れば「ストレッチ性」が名乗れるかというと、実は明確な基準はありません。
原料や組織、打ち込み本数にもよりますが、ウール100%でストレッチを標榜していない生地でも、0.5%程度は伸びる事も多く、スラックスの丈が100cmの場合には、計算上5mm伸びる事になります。
たかが5mmですし、きっちり5mm長くなるわけではありませんが、膝を曲げたときのストレスは、動かない生地と比較して確実に軽減される効果が有ります。
重衣料のスーツやジャケット、パンツが、ニット製品の様に大きく伸びる機能は必要ありませんから、3%程度以上の伸びが有れば、ストレッチ機能があると考えても良いでしょう。
100cmのスラックス丈で、3%のストレッチ性が有れば、3cmの余裕が生まれる事になります。
素材にストレッチ性を持たせるためには?
すこし難しいですが正確に記すと、ストレッチ性の有る素材としては、ウレタン結合を持つ重合体ポリウレタンを主成分として含んだ、長鎖状合成高分子を紡糸して作られる、合成繊維のポリウレタンがあります。これをスパンデックスと呼んでいます。
とても伸びる特性があり、収縮性が無い糸に対して、極細のスパンデックスを巻くことで、ストレッチ性が得られます。繊維の占有割合で言うと数%だけで、充分に効果が出ます。
スパンデックスの歴史は意外に古く、1940年ごろには既に開発されています。
天然ゴムの5倍から10倍の伸縮性が有り、耐摩耗性・耐薬品性に優れています。
旭化成の「ロイカ」や、東レの「オペロン」、デュポンの「ライクラ」などが、多くの衣類に使用されています。
何故高級素材に使われないのか?
ポリウレタンを巻くことによって、風合いが損なわれることがあります。
更に、熱や日光、ドライ溶剤に弱く、使っているメインの素材よりもポリウレタンは劣化が著しく早い事にあります。
劣化が進むとストレッチ性が悪くなり、伸びたまま戻らなかったり、ボロボロと表にこぼれ出てきたりするケースもあります。
劣化に関して最近の物は良くなってきましたが、原料からこだわって、風合いを重要視する高級素材には、スパンデックスを積極的に用いられる事はありません。
天然素材だけでも、薬剤で繊維に化学処理する事で、ストレッチ性を出す方法も有ります。
しかし、ストレッチ性は弱く、薬剤の効果は時間の経過と共に薄れていき、風合いも変化するため、やはり高級素材には用いられません。
トラバルドトーニャは如何に解決したか?
「トラバルドトーニャ」のストレッチ生地は、「エストラート」というネーミングで商品展開をしています。スパンデックス等の合成繊維を使用せず、繊維の化学的な薬剤処理も行っていません。
元々持っているウールのクリンプの特性を出すために原料を選別して、自然な弾力を最大限に活かし、撚糸を強く掛ける事によって伸縮性を増幅しています。強いバネにするイメージですね。
糸の工夫だけでなく、繊維が動きやすい組織や織り幅、仕上げの圧縮率などで、最適解を求めるためのトライアンドエラーを繰り返し、門外不出のノウハウを確立しています。
「ストレッチ性」のある生地は、引っ張らない状態では、縮んで圧縮されている状態になります。良質な原料を使用している「トラバルドトーニャ」の生地は、しっかりとした密度がある中に、独特のソフト感が生まれます。
ストレッチ性があるメリット
素材にストレッチ性が有ると、動きが楽になります。
電車でつり革を持つ動作をすれば、違いがハッキリと解ります。本来なら突っ張る場所が、ストレッチで力を逃がすからです。
スリムなシルエットで美しいラインを表現しながら、動きに制約を感じないスーツも、ストレッチ性の有る素材なら可能です。
長時間スーツを着る必要の有るビジネスマンには、ストレス無く活動的に仕事がこなせます。
特に出張時のトラベルスーツとして、ストレッチ性の有るスーツは非常に快適です。
着用していて楽なだけで無く、シワになりにくい特性が有りお手入れも簡単です。
また、伸びることで生地や縫い目に余分な力が掛かることを大幅に回避できるため、結果的にスーツが長持ちする事にも繋がります。
メンズだけで無く、レディーススーツにも、同じように大きなメリットが有ります。
秋冬のトラバルドトーニャ素材
ESTRATO(エストラート)
トラバルドトーニャの生地は、基本的に全て「ESTRATO」の名称で、合成繊維や薬剤を使用しない、天然素材だけで構成される「ナチュラルストレッチ」になっています。
「ESTRATO」はスペイン語で、日本語に直訳すれば、地質や生物組織、社会的な「層」を意味します。
天然の原料が幾重にも重なって伸びる「層」を構築しているからと推察されます。
それまで無かった、高級素材に「機能」を搭載という、新しい流れを創ったのが「ESTRATO」です。
SUPER120’s原料のウールだけで、通常の約2倍に当たる横方向のストレッチ性を持つストライプ柄のスーツ地です。
「ストレッチ性」のある生地は、引っ張らない状態では縮んで圧縮されている状態になります。良質な原料を使用している「トラバルドトーニャ」の生地は、しっかりとした密度がある中に、独特のソフト感が生まれます。
無地柄のスーツ地では、表面効果がより一層顕著に出て、存在感があります。
生地を手に取って見たときの印象と、仕立てたスーツではイメージが異なるかもしれません。
遠目で見ると、不思議な深みを持つ、存在感のある無地スーツになります。
仕立て上がりの写真は、左側の生地を使用しています。
「ESTRATO」は、細身のシルエットスーツに仕立てる素材として最適で、タイトなラインを美しく表現しながら、動きやすい快適さを持っています。
春夏のトラバルドトーニャ素材
ESTRATO
「ESTRATO」は、春夏素材も展開しています。
ウール100%だけでなく、合成繊維を使う事無くストレッチ性を持たせるのが難しい、春夏に適した麻(リネン)を含んだタイプも展開しています。
撚り回数を大幅に増やした、超強撚糸を使用していて、サラリとした「ESTRATO」特有のドライ感と、独特の立体感が表情にあります。
選び抜かれた上質なウール73%をベースに、清涼感が出るリネン25%、高級感ある光沢を加えるシルク2%の全てが天然素材で構成されていながら、「トラバルドトーニャ」独自の技術で、ストレッチ性を実現しています。
ビジネススーツ用途に違和感の無いダークトーンですが、さり気なくお洒落感を演出出来る、ブラウン系とグリーン系です。
麻を含んだ春夏スーツは、シワの心配が大きくなりますが、ストレッチ性が有ることで大幅に低減されます。
動きやすく快適でお洒落な春夏スーツに、「ESTRATO」は最適です。
まとめ
「トラバルドトーニャ」は、膨大な歴史のバックボーンに則った、王道のお洒落柄からトレンドを攻めた革新的な色柄まで、ハイクオリティーな素材が多彩です。
高級素材にストレッチ性という「機能」を持たせただけで無く、そこから生み出される弾力感あるタッチと素材が持つ表情は、独特の世界観を持っています。
便利で機能的、それでいて格好いいビジネススーツという新ジャンル。
しかし、ストレッチ性のあるスーツは、実は縫製がとても重要です。
縫製作業時には一定のテンションを掛けて行いますが、ストレッチ性のある生地は引っ張る事で寸法が変わります。縫製グレードが伴わないと、不格好なバランスの悪い製品になります。
縫製グレードの高い、ジャストサイズのオーダースーツで、高級ストレッチ素材を是非お試し下さい。